2019年8月16日20:45, ボードゲーム
「ハーツ」のルールを知らないという人は、珍しくはないと思います。ただ、「ハーツ」のルールを理解出来ないという人は、そうそういないのではないでしょうか。
ハーツのルールは至極簡単です。
端的に言ってしまうと、ハーツはトリックテイキングゲームの一種です。トリック(つまりここではハートのカードとスペードのQですね)をなるべく取らないようにすることが目的です。
すべてのトリック、つまり13枚のハートのカードとスペードのQを取ることで「シュートザムーン」という役を作り、残りの3人へ得点を与えることも可能ですが
ハーツの戦略として、一番最初に思いつくのは、なるべく早く自分の手札にあるマークの種類を減らす、というものではないでしょうか。自分の手札にあるカードのマークの種類が少なければ少ないほど、「初めに場へ出されたカードのマーク」と一致することが少なくなるためです。そうなれば、自分がトリックを取ることも少なくなるわけです。なぜなら、「初めに場へ出されたカードのマーク」を持つカードのうち、最も強い数字を持つカードを出したプレイヤーがトリックを取るわけですから。
次に、強い数字を出すときは4番目にカードを出すときにする、というものも思い浮かぶでしょう。1やKのように、強い数字のカードを最初に出してしまうと、自分がトリックを取らされてしまうことが多くなります。スペードのQを押し付けるのにうってつけのタイミングですからね。
逆に、自分よりも後にカードを出すプレイヤーがいないタイミング、かつ、今までに出されたカードの中に得点が発生するカードがないのであれば、そこで強い数字を処理してしまうのは、賢い戦略だと言えるでしょう。
「シュートザムーン」を狙う、というのも戦略の一つですね。自分の手札にあるマークが偏って配られている場合や、1やKといった強い数字が多くある場合は率先してトリックを取りにいきましょう。ほとんどないでしょうが、自分の手札がクラブ13枚の場合、自動的に「シュートザムーン」成立ですね。クラブの2からゲームが始まり、他のプレイヤーはクラブを持っていないのですから、自分だけが13回トリックを取り続けるのです。
スティーブンキングというアメリカの作家さんは、ハーツが重要な要素となる小説を書いています。「アトランティスのこころ」という小説の中にある中編「アトランティスのハーツ」です。
この話の背景を少しだけですがお話ししますと、時代はベトナム戦争中で、主人公は兵役を免れている大学生です。このころのアメリカの若い人々は戦争のために徴兵されベトナムへと送り込まれていました。学生だけは、学生という身分が、徴兵という死刑宣告にも等しい恐怖から学生たちを守ってくれていたのです。
主人公ピートは同級生の一人から金を賭けたハーツをやらないかと持ち掛けられます。ちょっとした小遣いを稼ぐためにハーツをやる仲間(つまりはカモ)を探しているその同級生は、何とか2人見つけたものの、あと一人、仲間が欲しいとピートに持ちかけます。ハーツは4人でやるものですからね。
ピートはそのころ、地理の単位を取るべく勉強しなければなりませんでした。ただ、魔が差したのか、ちょっとばかし小遣いを稼ぐのもいいと思ったのか、たった1ゲームだけのつもりでハーツを始めます。
この後の話の展開は言わずもがな、ですね。たった1回で終わるわけもなく、ハーツはまるで強力な感染症(インフルエンザやはしか)のように貧しい大学生たちを襲います。その「ハーツ熱」にかかった学生たちの中には、ハーツのために単位を落し、退学してしまう者もありました。
お忘れなきように、この小説の中で、特に大学生にとって退学とは即ち、ベトナムへ行って戦うことを意味していたのです。
物語はハーツを重要な要素に抱えていますが、ベトナム戦争やゴールディングの「蠅の王」という小説といった別の大きな要素と交じり、その重厚感たるやさすがはキングといったところです。
ぜひお手に取って読んでみることをお勧めします。上下巻で合わせて1000ページほどありますが、いくつかの中編、短編で構成されていますし、親しみやすい文体で読みやすいです。
この小説を読む前に「蠅の王」を読んでおくと、より一層面白くこの小説を読めるかもしれません。